運命の一夜を越えて
その手を握る。

このまま目覚めないのではないかと思うことが何度もあった。
今日だってそうだ。

もしかしたらこのまま・・・彩ともう会えないのではないかと不安になった。
考えたくはなくても、考えてしまう。

幸せな未来だけを考えたいのに、最悪の未来も想像してしまう。
もしかしたらその最悪の未来は近い未来なのかもしれないと思ってしまう。

「・・・」
彩が俺の方をじっと見つめて何かを言いたげにしている。

腫瘍が気管を圧迫しているせいで、彩は話をするのが困難な状況になってしまった。
俺は彩の声が大好きだ。
彩の言葉を聞きたい。ずっと聞いていたいと思っていた。
その声を聞くだけで俺は満ち足りた気持ちになる。

でも、それが難しい状況がこんなにも早く来るとは思っても見なかった。
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