運命の一夜を越えて
もう少し寝かせてあげたい気もするけれど、俺はためらわないと決めた。

何度も生死の境をさまよっている妻を見てきて、隣で手を握り続けて、諦めないことを呼び掛けていた日々に、そう心に誓った。

キスをしたければすぐに口づける。
話をしたければすぐに話をする。

手をつなぎたければ手をつなぐ。

病気の治療がひと段落着いたところで俺は妻に提案をした。
空気の悪い都会で暮らす毎日よりも、空気のきれいで景色もきれいな俺の生まれ故郷で暮らすことを。
そこならば医師をしている父のサポートもうけられる。

何よりも時間の流れをもっとゆっくりと感じたかった。

限りがあるかもしれない時間。
その時間を少しでもゆっくりと妻と味わいたかった。
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