料理男子、恋をする

窓が開けられて春の風が部屋に入る。朗らかな心地の部屋で、花見が始まろうとしていた。

「ところでその脇に抱えておるのはなんじゃ」

白樺と平田がテーブルに用意した軽食を前に、宗一が問うた。窓の外に見える枝垂れ桜が見事だが、そんなことにも構えない程、佳亮は緊張していた。

「あ……っ、これは……」

宗一の為に酸味を利かせたおかずを含むお弁当を持ってきた。しかし、テーブルにはきれいなオードブルが用意されてしまっている。流石に出すのも恥ずかしいと思っていると、宗一は見せてみろと言った。恐る恐るテーブルの上に二重のお重を出すと、ふたを開けた。

上の段には、紫蘇や刻んだ梅を混ぜたおにぎり。きんぴら、野菜の酢漬け、茹でた鶏肉の中華味にも酢を少々。から揚げにはレモンを添えて。卵焼きには紫蘇を混ぜて。そして筑前煮も酢を含ませてさっぱりと。

下の段には、甘い玉子焼き、ケチャップライスを薄い玉子焼きで包んだ茶巾包み、ラディッシュのマリネ。ポテトサラダにハムとミニトマトの串刺し。ブロッコリーのグラタン、小さく作ったレンコンハンバーグ。

宗一の好みは聞いていたが、雄一と祥子の好みが分からなかったので下の段は少し洋風にした。

「ほう、これは見事だ。おひとりで作られたのかな?」

「あ、はい。僕は料理しか得意なことがなくて……」

どれ、と言って宗一が真っ先に筑前煮のレンコンを頬張る。もぐもぐと宗一の口がレンコンを咀嚼するのを、じっと見てしまった。
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