最後の悪夢
だからここまでしているんだ。成績が全てじゃない。私だって正直成績なんてどうでもいい。凛上との約束を守りたいよ。
あなたと過ごした時間は、最後の悪夢の中でも唯一輝いていた。
「本気で言ってるの?」
引いたような目をして河井先輩が呟いた。
「忘れればもうなにも思い出さなくて済むんだよ。人を殺したこともね。だからこれはあなたのためだよ? 人を殺したことを後悔しなくていいの。そういう意味でもあなたを推薦できなかった」
可哀そう、と言っているようなものだ。慈悲に等しい物言いに、突き落されるような感覚。
私は、もう、耐えきれなかった。
「俺のためだと思うなら今ここで俺に殺されてください」
泣かずにいられるわけがなかった。
私は、ブレザーのポケットに手を入れると、ずっと前から入っていたそれを――彫刻刀を両手で握り、自分の首の前に突きつけた。
「やめてください」
涙声で叫ぶ。
一言言ってしまえば、なにも怖くなかった。