最後の悪夢
「凛上くん、先輩......提案があります。私の推薦の枠を彼に譲りたい」
彫刻刀を持つ手を下ろす。
自分を傷つけるつもりはなかったけど、もし冷静になれなかったらこれで首を切って死のうと思っていた。
今日は晴れだった。
カーテンは開かれていた。窓から差し込んだ日の光が、私の足元を照らしている。新しく変えた綺麗な靴下。繫華街で切った傷が、もう癒えている。幻覚だったんだ。あの時の痛みも恐怖も、作り物。
「先輩達がどうしても譲りたくない理由はなんですか?」
「彼には与える資格もない」
河井先輩が言う。先輩のこと、あんなに好きだったのに、もう好きじゃない。
「不適切とかどうでもいいじゃないですか。定員オーバーで一人があぶれるだけの話じゃないですか!」
「そんなことないわ」
「そんなことありますよ! 私はここで成績を逃したところで痛くも痒くもない。それに......凛上くんがどうしても忘れたくないのならその意を汲みたい」
「犯罪者のことを庇うの? おかしいよ」
河井先輩は眉尻を下げ、引いたように笑った。