金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「コットンの洋服、お好み焼き、夜中に観る映画、図書館、日本画」

 思いつくままに芳乃はあげてみた。結婚後は疎遠になっているものばかりだ。芳乃の好きなものはことごとく匠の趣味に合わない。

「映画は俺も好き! っていっても、ハリウッドの大作とかばっかりだけど」
「私が観るのもほとんどハリウッドよ」
「そうなの? オシャレなフランス映画とかかと思った」
「ヨーロッパ系のはダメ。途中で眠くなっちゃう」
「わかる。俺もだ」

 ファミレスでずいぶんと話し込んでしまった。店を出たら外はすっかり暗くなっていた。

「ごちそうさまでした」
「本当にファミレスのご飯だけでよかったの?」

 念を押すように芳乃は言った。

「え? ホテルとか行った方がよかった? 俺は別にかまわないけど」

 霧斗の目が楽しげに細められる。

「違うわよ。お小遣いとかあげなくていいのかなってこと」
「一応、男としてのプライドもあるし買われるのはイヤかなぁ」
「そうなの? 最近の子はそういうの気にしないのかと思ってた。それなら、これで」

 帰ろうとする芳乃を彼が引き止めた。

「なに?」
「買われるのはイヤだけど、お金には困ってるんだ」
「貸してあげようか? 無利子無期限でいいわよ」
「じゃなくて、来週もご飯おごってくれない?」

 外国人みたいな色素の薄い瞳がじっと芳乃を見つめている。
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