金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
芳乃がくすりと笑ってうなずくと、彼は満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、やっぱり芳乃の好みにどんぴしゃだった。
「じゃ、俺は芳乃さんの金曜日の恋人だね」
霧斗と別れたとき、時刻はもう午後九時を過ぎていた。芳乃は少し足早にマンションへ急いだ。もし万が一、匠が帰ってきていたら、なんと言い訳したらいいのだろう。
芳乃が夜に出歩くことなんてめったにない。趣味のヨガも奥様仲間と会うのも、昼間だけだ。
「麻美から急に電話があって、飲みに行ってきた。不自然じゃないよね?」
歩きながら、ひとりつぶやく。麻美は高校時代の友達だ。バリバリのキャリアウーマンでいつも忙しそうにしている。最近はあまり会っていないが、彼女となら夜遅くに会うのもおかしくないはずだ。
「ただいま。って、やっぱりいないか」
芳乃は苦笑する。まるで夜遊び帰りの高校生のように、こそこそと鍵を開けて入った部屋は真っ暗だった。入念に言い訳まで考えていた自分が滑稽で恥ずかしい。
こんなに早い時間に、匠が帰っているはずなんてない。ここ一年ほど、金曜日の帰宅はいつも
日付が変わってからだ。
いまごろ彼は里帆子と楽しい時間を過ごしていることだろう。
「じゃ、俺は芳乃さんの金曜日の恋人だね」
霧斗と別れたとき、時刻はもう午後九時を過ぎていた。芳乃は少し足早にマンションへ急いだ。もし万が一、匠が帰ってきていたら、なんと言い訳したらいいのだろう。
芳乃が夜に出歩くことなんてめったにない。趣味のヨガも奥様仲間と会うのも、昼間だけだ。
「麻美から急に電話があって、飲みに行ってきた。不自然じゃないよね?」
歩きながら、ひとりつぶやく。麻美は高校時代の友達だ。バリバリのキャリアウーマンでいつも忙しそうにしている。最近はあまり会っていないが、彼女となら夜遅くに会うのもおかしくないはずだ。
「ただいま。って、やっぱりいないか」
芳乃は苦笑する。まるで夜遊び帰りの高校生のように、こそこそと鍵を開けて入った部屋は真っ暗だった。入念に言い訳まで考えていた自分が滑稽で恥ずかしい。
こんなに早い時間に、匠が帰っているはずなんてない。ここ一年ほど、金曜日の帰宅はいつも
日付が変わってからだ。
いまごろ彼は里帆子と楽しい時間を過ごしていることだろう。