金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「でも、必要だったらいつでも呼んで。俺、芳乃さん好きだからさ」
「ハンバーグより好き?」

 冗談めかして芳乃は言う。別にハンバーグと唐揚げより下でも全然かまわない。彼の好きがどれだけ軽かろうと、その言葉をくれるだけで十分だった。

「同じくらいかな。芳乃さんも毎日でもいいくらいに好きだもん」
「ありがとう。もう十分、埋めてもらってる」

 霧斗と過ごす時間は、あたたかい陽だまりのようだ。冷えきった心と身体をふんわりと包みこんでくれる。

 正直に白状してしまえば、別に彼でなくともいいのだと思う。男でなくてもいい。犬や猫でもかまわない。一緒にいてくれるのなら、誰でも……。
 けれど、芳乃と一緒にいてくれるのは霧斗だけだ。霧斗しかいなかった。

「う~さっむいね」

 ファミレスを出た霧斗は、首をすくめて両手をこすりあわせた。黒いマフラーに埋もれそうな鼻先が少し赤くなっている。

「手袋貸してあげようか。私、寒いの嫌いじゃないから」

 芳乃がポケットから茶色の革手袋を取り出すと、彼は苦笑して首を振った。

「芳乃さんて、俺を小学生くらいの少年だと思ってるでしょ」

 彼がなにを言いたいのかわからず、芳乃は小首をかしげた。すると、彼は芳乃の手首をつかみ自身の手とぴたりと重ね合わせた。
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