金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「見て。芳乃さんの手袋はさすがに入らないって」

 霧斗の言う通り、彼の手は芳乃の手よりゆうにひと回りは大きかった。

「華奢そうに見えるのに……」
「一応男だし、成人してるしね」

 霧斗はそのまま芳乃の手を握って、自身のコートのポケットにしまった。

「誰かに見られたらまずい?」
「ううん。まずくない」

 そう答えて、芳乃は霧斗と手をつないだまま歩きだした。

 本当は誰かに見られたら、とてもまずい。匠も奥様仲間も、自分の両親も……芳乃の世界はとても狭い。この街のなかだけで完結している。
 ここで偶然に知り合いとすれ違ってもなにもおかしくはない。だけど、そうなったらなったで、別にかまわない。いっそのこと、すべて壊れてしまえばいい。霧斗といると、そんな強気な気分になる。 
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