金曜日の恋人〜花屋の彼と薔薇になれない私〜
「あぁ」

 自分のものとは思えない甘い喘ぎに、芳乃は自分でも驚いた。目の前の霧斗がにやりと唇の端をあげる。

「ほら、やっぱり違う。むしろ真逆じゃない? この程度でそんな反応するなんて」

 彼は楽しげに言うと、その柔らかな唇を芳乃に寄せる。芳乃は慌てて、それを手で遮った。

「キスはいいの。いらない」

 霧斗は少し驚いたように目をみはったが、理由は聞かなかった。

「了解。キスはなしね。高級娼婦みたいでかっこいいな」

 彼のこの軽さは、芳乃の気持ちまで軽くしてくれる。後ろめたさや罪悪感を、あやふやにぼかしてくれる。

「その代わり、唇以外には存分にキスさせてもらうから」

 言うなり、彼は芳乃の耳たぶを喰んだ。彼の舌がはうゾワリとした感触に、芳乃の背中はびくりと震えた。
 彼の繊細な指先が芳乃の胸を弄ぶ。吐息のような喘ぎはいつしか矯声へと変わっていく。


 甘ったるいこの声も、敏感に反応するこの身体も、自分のものとは到底思えない。魂だけが知らない女の中に入り込んでしまったように思える。



 






 
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