契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「はい、手放さないでください。私も絶対に手放しません」
 
 まさか自分からこんな言葉が出るとは思ってもみなかったが、それは大吾さんも同じだったようで。大きく目を見開いたかと思うと、顔を少し赤く染めて後頭部をガシガシ掻いてみせた。

「それ、本気で言ってるのか? あとから冗談でしたとか言っても、なしにはできないぞ」
  
 大吾さんは早口でそう言うと、もう一度私を抱きしめた。

「は、はい? 大吾さん、それ言ってる意味がよくわからないんですけど」
 
 なんでまた抱きしめられたのかわからない私は、大吾さんの腕の中で小首を傾げた。と同時に社長室と繋がるドアが開いて、これはマズいと慌てて彼から離れようとして失敗終わる。

「社長、お時間が……いえ、失礼いたしました。あと十分ほど余裕がありますので、そのままお続けください」
 
 斎藤さんは気をきかせたつもりか、一礼するとくるりと背を向けた。

「そういうことなら八重、遠慮せずにだな」
 
 斎藤さんが言ったことを真に受けたのか、大吾さんは何事もなかったように顔を近づける。

「え、えぇ!? いや、ここはちゃんと遠慮しましょう。斎藤さんがいいと言っても、ここは会社なんですから」
 
 大吾さんの胸に手を当てると、これ以上近づけないようにと抵抗を試みる。



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