契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 心配になって、大吾さんを見る。でも大吾さんにもわからないのか、首をひねって見せた。

「彼女がどうしたって言うんですか?」
「坊ちゃんが女性を伴ってくるなんて初めてのことですよね? だから、もしかしたらと思いましてね」
「はあ、そういうことですか。わかった、わかりましたから、その坊ちゃんと呼ぶのはやめてください。俺、もう三十三歳ですよ? 坊ちゃんっていう歳じゃないでしょう」
 
 そう呼ばれるのがよほど嫌なのか、大吾さんは大きなため息をつくとガクリと肩を落とす。でも恩田さんは、大吾さんの気持ちを知ってか知らずかそれをスルー。ニコニコ顔で話を続けた。

「私は生まれたときから、坊ちゃんを見守り続けてきたんです。おめでたいことなら、ゆっくり話を聞かせてください」
「おめでたいこと……」
 
 大吾さんがそう呟き、チラッと私を見る。そのどっちつかずの表情が何を語っているのか、私にはわからない。いいことならよかったのに、私の頭の中に浮かんだのは偽装結婚の文字で、咄嗟に目を逸らした。
 
 大吾さんの気持ち、本当のところはどうなんだろう。


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