契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 会ったこともない話したこともない月菱酒造の社長と一対一の状況に、頭の中はパニック状態。わけのわからないことを考えてひとりでテンパっていると、社長が立ち上がりエグゼクティブデスクをまわってこちらに歩き出す。

「え……」
 
 髪を掻きあげ私へと向けたその人の顔を見て、息が止まったように言葉を失う。
 
 嘘。なんで……。

 二か月前のあの日。元カレのことを忘れさせてやると一晩を共にした、激しくも優しく丁寧に抱いてくれた唇と手は、元カレは忘れさせてくれたというのに新しい記憶を私の胸に深く刻み込んでしまった。

 忘れたくても、忘れられなかった人。
 
 でもどうして、この人がここにいるの? 他人の空似?
 
 髪は少し伸びているものの、黒曜石のような黒い瞳にピンッと伸びた背筋。ライトグレーの細身のスーツを美しく着こなした姿は、あの日と寸分も変わっていない。
 
 もう二度と会うことのない人だと思っていたのに、この人が月菱酒造の社長だったなんて……。



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