契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「お、おい、いきなりなんだ? 俺はただ、シートベルトをだな」
「あ、そう、そうですよね。私はてっきり……」
 
 キスされるのかと勘違いしてしまった。でも大吾さんも悪い。いきなり何も言わずに近づいてくるんだもの、冷静に驚かずいられるわけがない。
 
 勘違いに気づき、両手で顔を隠す。

「それならそうと言ってください。シートベルトくらい、自分でできます」
「それもそうだな。悪い」
「ホントですよ」
 
 こんなこと、心臓によくない。止まるかと思ったじゃない。
 
 キスどころかそれ以上のこともしているというのに今更?と思うかもしれないけれど、それとこれとは話は別。何度されても大吾さんとのキスは慣れないし、今は契約上の夫婦なんだから甘いことはなし。

 もし何度もキスしてしまったらそのうち気も緩んで、なし崩しにまた関係を持ってしまいそうで……怖い。
 
 だってこの結婚は契約で、本気になっちゃダメな人──なんだから。

「大吾さん、私もお腹が空いてきました。そろそろ行きましょう」
 
 気持ちをパッと切り替えて、努めて明るく話しかける。

 今は余計なことは考えない。清流に落ちた葉のように、その流れに逆らわずただ時に身を任せていればそれでいいんだと……。



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