契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 
 大吾さんが連れていってくれた洋食屋は、閑静な住宅街にある一軒家。

 たくさんの木々に囲まれた洋館で、門をくぐり一歩足を踏み入れるとまるでここだけが違う世界にタイムスリップしたような感覚に胸が躍る。
 
 店内もまた素敵で、柱時計や掛け時計、からくり時計などの趣のある古い時計があちこちに飾られ静かに時を刻んでいた。

 でもよく見ると、ひとつとして同じ時間を指しているものがない。どうしてだろうとキョロキョロしている私を見て、大吾さんがふっと笑みを漏らす。

「早速、気づいたか。さすがは八重、目の付け所が違うな」
「なんですか、それ。でもすみません、落ち着きがなくて。大吾さんはこの時計たちが違う時間を刻んでいる、その理由を知っているんですね?」
「ああ、知っている」
 
 大吾さんは大吾さんはそうひと言だけ言うと、ひときわ存在感を示している大きな柱時計に目をやる。重厚で深みのある色合いのそれは、この店の“主”といったところだろうか。



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