契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
「八重も」
 
 大吾さんは私から雨夜の月を奪うと、グラスを出せというように指を動かす。

「は、はい、すみません」
 
 慌ててグラスを大吾さんの前に出し、それに雨夜の月がなみなみ注がれた。

「大吾さん、入れすぎですよ。溢れそうじゃないですか」
「だったら、口から迎えに行けばいいだろう。先に少しだけ飲んでいいぞ」
 
 飲んでいいだなんて……。
 
 でもニヤリと笑った大吾さんの顔を見て、なみなみ注いだのはわざとだと気づく。なんでこんなことをと思っていた矢先、グラスからお酒が零れそうになって慌てて顔を近づけた。間一髪のところでこぼれるのを免れ、口の中に入った雨夜の月をこくりと喉へ流し込む。

「美味しい……」
 
 よく冷えた微炭酸の日本酒が、ほのかに甘みを感じさせながら喉をすっきりと通っていく。

「これは食前酒もいいが、食中酒として飲んでも料理の味の邪魔をしない。甘みもキレがあるから、どんな料理にも合うんだ」
 
 大吾さんは雨夜の月をひと口飲むと、真鯛の刺身を一切れ頬張った。



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