契約夫婦のはずが、極上の新婚初夜を教えられました
 昼のときも思ったけれど、さすが月菱酒造の社長だけあって育ちがいいのか、流れるような美しい所作に見惚れてしまう。

 やっていることは私たちと変わらない、ただ飲んで食べているだけなのに、どこか違って見えるから不思議だ。

「八重、どうした? 食べないのか?」
 
 名前を呼ばれて、ハッと我に返る。大吾さんのことを考えていて箸を持つ手が止まったままだ。

「い、いえ、なにも……」
 
 あなたのことを考えていましたなんて言えるはずもなくて、そう言い淀み真鯛の刺身に手を伸ばす。でもそれを大吾さんの手に阻まれてしまい、何ごとかと彼を見上げた。

「いい、俺が食べさせる。口を開けろ」
 
 何を思ったのか大吾さんはいきなりそう言うと、お刺身を二切れ箸でつまむ。

「いや、いいです。自分で食べられます」
 
 子供じゃないんですからと丁重にお断りしたのに、大吾さんは聞く耳持たず。真鯛の刺身がぶら下がる箸を目の前に差し出され、食べろ食べないの堂々巡り。

 いつまでもこんなことを続けてはいられないと先に折れ、恥ずかしくて仕方なかったがおずおずと口を開いた。



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