最終列車が出るまで


 彼の事を、誰かに何か言われる事はない。当然だけど。私一人が、そっと思い出すだけだ。

 鮮明に思い出せればだせる程、彼の事は夢か幻か、私が作り出した妄想の産物か、そんな風に思えてくる。

 彼とは、会おうと思えばいつでも会える。私の頭の中で。でも、本当の彼に会う事は二度とないのだろう。……『本当の彼』がいれば、だが。

 やめよう。これを考えだせば、同じ所をグルグルと回るだけだ。

 そして、最後に残るのは、ただ『彼に会いたい』というやるせない想い。

 大きく溜め息をついて、洗濯かごを手にした。今日は飲み会がある。いつも以上に、私は忙しいのだ!

 無理やり気持ちを切り替えて、室内に戻った。



*****


「いっちゃん、なっちゃん、ごめんね!それでは、よろしくお願いします!」

 ダイニングテーブルで宿題をする二人を交互に見ながら、私は頭を下げた。

「大丈夫!ちゃんと宿題も、しちゃうから」

 逸美が、大きく頷いた。

「おにぎりのお皿、もうノートの上には置きません!」

 夏美がテーブルの上を確認してから、私の顔を見て言った。

 二月の飲み会同様に、ダンナは帰って来ていない。一応、連絡はしたけど。そんなにあてにはできないと、もう諦めている。

 二人とも一学年進級して、逸美は六年生、夏美は三年生となった。

 もともとしっかり者だった逸美。小学校最高学年として、いろんな行事のまとめ役となり、さらに頼もしさが増した。

 マイペースでそそっかしい夏美。小学校生活にもすっかり慣れ、下学年の子を気遣うようにもなった。



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