最終列車が出るまで


 二人とも、日々成長している。子どもの一年間の成長には、目覚ましいものがある。

 ダンナは四月に異動があり、違う営業所の所長となった。これまでいた営業所よりも大きな店舗となり、所員の人数も、担当するお客様の人数も増えた。

 大変さはあるが、やりがいも感じているようで、ますます忙しくしている。

 『亭主元気で留守がいい』と、思うようにした。

 私だけが、何も変わらない。一つ、年をとっただけ。平穏な毎日を、有難い事だとは思っている。でもどうしても、寂しいような、焦るような、虚しいような、そんな気持ちにもなってしまう。贅沢だという事も、わかっている。

「いっちゃんなっちゃん、いってきま~す!」

 玄関で振り返り、ダイニングキッチンにいる二人に声をかけた。

「「いってらっしゃ~い!気を付けてね!がんばってね!」」

 二人のお決まりの送る言葉を聞き、玄関を出た。

「はいはい。がんばって、飲んできますよ」

 駅に向かって歩きながら、そう小さく呟いた。


*****



「フフッ、フフフ、フフッ……」

 駅に向かって一人歩きながら、不気味な笑いを浮かべていた。

 足元がふらつく程ではないが、今日はいつものアラフォーグループの飲み会よりも酔っている。飲んだお酒の量も多めだったし、なんとなく気持ちが高揚している。

「中野さん、可愛かった。フフッ」


 田舎の中にあっては、ちょっと高級感があってお洒落な雰囲気のホテル。その存在は目にしていても、私には敷居が高くてほとんど利用する事はなかった。

 そんなホテルのビアホールだ。もう、それだけで気分が上がる。



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