最終列車が出るまで


 カウンター席が七席、二人掛けのテーブル席が二席の、小さなお店だった。

「みんな、連れて来ちゃった」

 カウンターの中にいた男の人に、そう言って照れたように微笑んだ中野さん。

 とても、可愛らしかった。

 その微笑みで、その人が中野さんにとってどういう存在なのか、なんとなく察したアラフォーグループの面々。さすが、大人女子の集まり。みんな伊達に年は取っていない。

 カウンター席に、五人並んで座った。各々、好きなお酒を注文する。私は、ソルティードッグを頼んだ。こういうカクテルをお店で頼むのは、かなり久しぶりだ。

 その人は「トノさん」といった。トノヤマさんとか、トノムラさんというのかな?年令(とし)は、三十五才か三十六才。このバーは知り合いのお店で、時々こうして手伝っているそうだ。若い頃に都会で、バーテンダーをしていた事があるそうだ。

 中野さんは、保険会社で事務のパートをしながら、週末には居酒屋でアルバイトもしている。二人いるお子さんは今、大学生と専門学校生。子供に一番、お金がかかる時期だと言っていた。

 いつも飲みに行く高校の同級生二人も、二十代半ばには出産している。現在子育て中の私と違って、子供達からは、だいぶ手が離れたようだ。

『子供が大きくなると、手はかからなくなるけど、金がかかる』

 そんなセリフを、二人からよく聞いていた。どこも、同じなんだな。

 トノさんのいろんな情報は、全部中野さんが教えてくれた。トノさんは、中野さんがアルバイトをする居酒屋の常連だそうだ。

 トノさんは、口数が少ない。中野さんが話す事に、微笑みながら頷いたり、首を傾げたりするだけだ。

 でも、ふいにトノさんが発する言葉が個性的で、みんなでポカンとしたり、笑ったりした。



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