センチメンタルナイト【完】
周囲で手拍子をしている奴らを遮断するかのように、夕紀と二人きりの世界にいる錯覚さえ抱く。
歌唱力が圧倒的だとか、そんな単純な理由ではない。

今までも好きなアーティストの曲を聴き入って、感動を覚えたことは幾度となくあった。
だが今回は根本的に何かが違う気がしたんだ。
それがなんなのか明確にはできなかったが、夕紀の歌声にすっかり魅了されている俺がそこにいた。

この日を境に俺は頻繁に夕紀に声をかけるようになり、同じバンドを好きだったという共通点もあったお陰で、高校を卒業する頃にはかなり親密な仲になっていたのである。
もし木之本から誘いを受けず、自ら高校の軽音部に入部する道を選んでいれば、もっと早くに夕紀と仲良くなれていたのかもしれない、なんて考えてしまうこともあったのは誰にも言えないし、言う必要もない本音だ。

友達以上恋人未満、兄と妹、保護者と子供、どういう例えが無難か難しいところではあったが、なんにせよ俺は夕紀のことを大切な存在としていた。
また夕紀も足元に擦り寄る猫のように俺にとても懐いてくれた。
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