センチメンタルナイト【完】
控えめに振り返れば、色っぽい格好のまま私を見据えていた仁と目が合う。
慌てて逸らした目線は、仁の髪の毛先から滴る水滴に止まった。


「……ありがと。私のこと慰めてくれたんだよね」
「気にするな。俺自身の慰めでもあったんだ」
「え?」
「いや、なんでもない。気をつけて帰れよ」
「うん。それじゃ、またね」


玄関のドアを開けて仁の部屋を出る。


「気付けよ鈍感女」


仁が小声でそんなことを言っていたのを、この時の私はまだ知らない。

外に出るともう太陽は高く昇っていて、その眩しさに私はきゅっと目を細める。
夏の始まりを告げる生ぬるい風が衣服の間を通り抜け、なんだかそれがとても心地よく感じられた。
日の光を浴びていると活き活きとしてくる。
光合成をする植物の気持ちがちょっとだけ分かったかもしれない。


「一星……」


想い人の名前を小さく声にする。
玉砕というには努力不足が目立ったけど、私はこうして呆気ない失恋を果たしてしまったわけだ。
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