ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です

[この埋め合わせは、高いわよ。岩岡屋の焼肉だからね]

焼肉食べたいねと言って、気軽には入れないお値段のお店を指定される。

本当にごめんなさいと謝り、高い出費を覚悟した。

そして、次回会う時、理由を問いただされそうだと思うと気が遠くなりそうになる。

「連絡したのか⁈」

「うん」

そう答えて、また外を眺めた。

「どこ行くの?」

「一緒に、ご飯を食べる時間ぐらい作ってくれるだろう⁈」

私が断らないと断言するような晶兄の口ぶりに、なぜか素直に納得できない。

こちらは、晶兄のせいで出会いもなくなり、高い出費を約束させられたのだ。

「別にいいけど、居酒屋とかは嫌だからね」

「了解」

しばらく車を走らせて着いたところは、古民家風の看板もない普通の建物だった。

「誰の家なの?」

「リノベーションした、看板のないレストランだよ。おいで…」

エスコートするように手を差し出されたが、戸惑っている間に手を握られてしまい、手をひかれてお店の中に入っていた。

「いらっしゃいませ…あら、珍しい人が来たのね」

30半ばぐらいの女性が、晶兄の肩を叩いた。

「個室空いてる?」

「えぇ、空いてるけど…そちらの女性は?」
< 31 / 73 >

この作品をシェア

pagetop