愛は知っていた【完】



数日後、帰省した俺は夏ぶりに朱里と顔を合わせた。
わざわざ迎えに来てもらうのは申し訳ないと断わりを入れていたのだが、やはり朱里は駅まで来てくれていたのだ。

やっほー、と陽気に手を振る朱里の笑顔にはつくづく癒しを覚える。
その時俺は先日思い出した例のマフラーを巻いていたのだが、朱里はそれに気付くとおかしそうに笑っていた。


「なんで今になっても巻いてるの?ていうかあっちに持っていってたとかウケるー」


途端に俺は恥ずかしくなりいっそ外してやろうかと考えたが、朱里が小声で「ありがと」なんて言うものだから、マフラーにかけていた手は再びポケットに引っ込んだ。

駅を出るとはらはらと静かに雪が降っていた。
大きめのボストンバッグを持つ俺の隣で朱里が傘を差す。
家までは徒歩数十分で、然程苦になる距離ではない。

見慣れた車の迎えが無い辺り両親は仕事なのだろうか。
しかし当初駅へ来るつもりがあったくらいだし、そもそも年末で休暇のはず。
となれば朱里が進んで一人で迎えに行くことを申し出たのか。
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