愛は知っていた【完】
真意は分かりかねるが、この状況にはなんとなく気まずさがあった。
夏は常に家族一緒にいたし、行き先も大勢の人でごった返している場所ばかりだったから、こうして二人きりで静寂に包まれることなんて、それこそあの時以来な気もする。


「お兄ちゃん背伸びた?」
「え……そう、か?」
「うん。伸びたよ」


俺の一方的なものかもしれないが心なしか言動がぎこちないというか、会話が長続きしない。
先日との彼女の一件がまだ鮮明に思い出せるせいもあるかもしれないが。

他にも心当たりはある。
実は元彼女とはキスまでしかしてなくて、未だ自慰をする時は朱里をオカズにしているとか。
今こうしている間にも沸々と下心が湧きあがっているとか。
これには俺自身自嘲的な笑いを零すしかない。
自分がいかに低級な下種野郎か痛感させられてばかりだ。

しばらくぶりの地元は恋しかったものがたくさん見当たる。
向こうよりも一際しんしんと身に堪える冷気とか、一面に広がる雪景色とか、あと朱里という俺に必要不可欠な存在も。
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