愛は知っていた【完】
この季節、北海道の夜は恐ろしく冷えるのだが、隣にいる朱里が湯たんぽの役目を果たしているお陰か、それとも別なことに興奮しているせいか、正直暑いとすら感じていた時だ。
目尻に涙を溜めて抱腹していた朱里と視線がぶつかり、俺がやんわりと微笑みかけてみせた刹那、それまで流れていた空気が僅かに軌道を変えた気がした。


「お兄ちゃ……」


どうしようもない現実がそこにあるのに、それに背を向けて全力疾走しようとしている自分がいて。
改めてそれに気付かされた時には、朱里が浮かべている涙の意味も数秒前とはまるで違っていて。

互いに見つめ合ったまま無言状態が続く中、俺はそっと朱里に手を伸ばした。
生唾が喉を通過する。
近付いてきた俺の手に髪をすくわれた朱里はビクンと体を震わせた。
身を強張らせながら潤んだ瞳で俺を見据えるその様は、あの夜の情事を鮮やかに蘇らせる。
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