愛は知っていた【完】



あれから朱里が結婚し翌年には俺も結婚し、互いが偽りの愛を誓った相手とひとつ屋根の下でのを始めても、周期的に逢瀬しては情事に没頭し、また兄妹という事実を言い逃れの材料にして公けの場でもデートを楽しむ日々を送っている。
なんの変哲もないファミレスで交わした約束に期限切れなど存在しないと信じたい。

この先双方の夫婦間に子供ができて温かな家庭を築くことになろうとも、俺は一生朱里を愛し続けるだろう。
今日もまた街外れのホテルで色事を終えた俺の隣には、艶やかな肌を露出させた最愛の妹が幸せそうに眠っている。
朱里の髪をそっと撫でてやると、小さな声を上げながらその長い睫毛を揺らした。
起こしてしまったことを謝れば、ふるふるを首を横に振り俺を見据えたまま桃色の唇を微動させる朱里。


「ねえ。お兄ちゃんは今幸せ?」
「当たり前だろ」
「……うん。私もね、とっても幸せだよ」


目を細めた朱里に微笑み返してからそっと口づける。
朱里から伝わってくる体温も呼吸も、鼓膜を癒す声も透き通った瞳も、全てが愛おしくて堪らない。
俺には朱里が、朱里には俺だけいればそれだけで十分なのだ。

歪な愛の形に酔いしれながら、俺達は排他的な幸福に浸る。
これが永遠のものになれば良いと願いながら、俺は朱里の温かな体を優しく抱き締めた。



【仮初の愛にすがる END】
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