愛は知っていた【完】
先輩の方からお兄ちゃんの手を握る。
以前まではお兄ちゃんの姿を見つけたら迷わず飛びつきに行ったのに……行けていたのに……。

遠くから手を繋いで帰る二人の後ろ姿を眺めていた私は、ぼんやりとその場に立ち尽くしていた。


「顔色が悪いけど大丈夫かい?」


そんな時、後ろから声をかけてきたのは野球部の顧問である白井(しらい)先生だった。
端整な顔立ちは所謂甘いマスクというやつで、まだ20代前半の独身であるため、野球部のマネージャー一同の中ではもちろん、白井先生が目当てで部の見学に来る女子生徒も多い。
というか野球部のマネージャーが急激に増えたのはこの人のお陰に違いない。
だから今思えば私一人が辞めようが、これは今の部にはなんら差し支えのあることではなかったのだ。

白井先生はニッコリと微笑んで私を見下ろしている。
なんとなく黒いオーラが漂っているような、確信犯って感じの笑顔だ。
この人私がお兄ちゃんにべったりだったの十分把握しているだろうし。
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