君のブレスが切れるまで
 手を動かしながら、今言った自分の言葉の意味を考える。傷が残ったら大変、それじゃもう私は大変どころじゃすまないのかもしれない。
 そもそも大変って何? その理由が私にはわからない。ただ親からはそんなことを言われていた気がするから、今この言葉が出たのかもしれない。
 私は雨には傷ついてほしくない。彼女が傷つくのなら、既に傷だらけの私が代わりに――


「奏、また何か考えてるわね」


 雨の言葉でふと我に返り、集めた破片が入っている袋の口を結ぶ。


「な、なんでもないよ。待たせてごめんね、すぐ救急箱持ってくる」


 私は上ずった声でそういうと、雨の横を通り自分の部屋へと戻った。
 隠し事をするつもりはなかったのだが、彼女にはきっと私が何を思っているかバレているだろう。


 この部屋は相変わらず殺風景。リビングとキッチンには生活する上であったら便利なものは一通り揃えられたけど、この部屋には布団と折りたたみ式の小さなテーブルくらいしかない。何度も彼女は欲しいものがないかと聞いてくれたけど、その全てに首を横に振ったのが結果。
 私は部屋の片隅に置いていた使う頻度の減ったプラスチックの救急箱を取る。それと同時に自分への苛立ちが募った。


「……破片を片付ける前に、雨の手当が先だったんじゃないの……何やってんのよ私は」


 融通の効かない自分で本当に腹が立つ。目の前で起きた出来事しか見えないのは厄介で、直さなきゃいけないところだと思っていてもなかなか直らない。
 ――もう遅い。どんなに悔やんでも怪我した雨を待たせたのは事実だ。こんなことを考える前に、早く戻ろう。
 部屋の扉を開けると先程と変わらない場所で雨が手を押さえていた待っていた。傷を押さえるために使われているティッシュには、既に乾いてきてるのか茶色くなった血液が見える。


「ごめん、お待たせ……」


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