君のブレスが切れるまで
 罪悪感で相手の顔を見れず、私は彼女の座る対面側の席から椅子を持ってきて、隣へと座った。
 そこでようやく雨の顔を見る。
 無表情。痛くないわけがないはずなのに、赤い眼の少女はいつも通りの表情のまま私の目を見てくれた。


「手、貸して」


 私が言うと、無言のまま手を差し出してくれる。
 切り傷はあまり深くない、けど皮膚が薄い場所だ。血もそれなりに出ていた、痛かっただろうに。
 救急箱から消毒液を取り出す。時間が経っているから雑菌も多くなっているかも……染みるかな。


「我慢、してね?」


 雨は何も返答しない。そのまま傷口へと消毒液をかける、けど彼女はピクリとも反応しなかった。


「痛くない? 大丈夫?」
「少しだけ痛いわ。けれど、大丈夫」


 やっぱり雨でも痛いって思うよね、長いこと待たせちゃって悪いことをしてしまった。
 消毒液を戻し、次はカーゼと包帯を取り出す。


「ねぇ、奏」
「何?」
「奏の判断は正しかった。先に貴女が救急箱を取りに行ってたら、破片の処理は私が全て終わらせていたわ」
「…………」


 まったく雨には敵わない、やっぱりお見通しかぁ。
 私の心の言葉に返答してくれる雨。そんなに私がわかりやすいのか、それとも雨が別次元にすごすぎるのか未だに理解が及ばない。


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