君のブレスが切れるまで
 その時だった。


 左肩を叩かれ、私は心臓と肩を跳ねさせた。


「君、なにしてるの?」
「あ……え……いや……」
「あのさ。僕、警察だから変なことしてもすぐわかるの、そのバッグをこっちに渡して」


 後少しだったのにバレてしまった。上手くいってると思っていたのに。


 変なこと……確かに私のやっていたことは子どもの浅知恵という言葉が相応しいだろう。
 思った以上に挙動不審な行動だったんだ。フェイクがフェイクにすらなっていない、ただの挙動不審。


 それでも――


「早く渡して」


 私は諦め、口の空いたバッグを隣にいた警察官へ左手で手渡した。そして視線を深く、深く落とす。


「もう変なことしないでね」


 変なこと……? 何が変なことなの。
 ただ私は雨に連絡したいだけだったのに……雨に心配かけたくないだけなのに。それのどこが変だと言うのだ。
 途端、私の右手が震えた。
 私は少しだけ微笑みを浮かべ、右手を一瞬だけ握りしめボタンを押すとすぐに言葉を発する。


「おまわりさん、これから警察署へと行くのですよね?」
「ああ」
「わかりました。心配しないでください、もう何もしませんから」
「……そうしてくれるとこっちも助かるよ」


 おまわりさん、貴方に言ったんじゃないよ。『心配しないで』って言葉は。
 私はそれだけを言うと、疲れてしまいそれ以上は口を開くことはできなかった。


 ごめんね、雨。でも、聞こえたかな?


 雨ならきっとわかってくれるよね。少し遅くなるけど場所は伝えたよ、迷惑かけちゃうかもしれないけど、心配はしないで。
 しかし、彼女からの返答は聞こえない。でも今はそれでいい。
 私はその右手に、雨と繋がっているスマホを握っていたのだから。


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