溺愛予告~御曹司の告白躱します~

「移転の話はまぁ聞いてもいいってうちの上も言ってるもんだから。誰かベテラン寄越してよ。もっと詳しい人がいるでしょ」
「あの、私は……」
「失礼します。こちらを」

後ろに控えていたはずの爽くんが会話に割り込むように声を掛け、一歩進み出て名刺を差し出した。

「水瀬ハウス工業建築事業部営業課の水瀬と申します」

新しい担当者は爽くんの自己紹介に目を丸くした。

「水瀬っていうと…」
「はい。父が社長をしています」
「あぁ、それは、いや、そうでしたか…」

目に見えて動揺する担当さんを目の当たりにし、やるせない思いだけが募っていく。

「彼女は私が尊敬する先輩です。何かあれば水瀬の名にかけて私が責任を取ります。彼女に任せて頂けませんか」

結局私はその日は何も出来ず、ただ爽くんと手のひらを返したように腰の低くなった担当者が話すのを見ているしか出来なかった。


◇◇◇

生田化成からの帰りの車でカフェ『calando(カランド)』に寄った爽くんが「新発売でした」と渡してくれたのは、ベルギーチョコを贅沢に使ったと銘打った美味しそうなココア。

朝出勤すると必ずと行っていい程下の自販機でココアを買っているのを知っているので、気を使ってくれたんだろう。

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