溺愛予告~御曹司の告白躱します~
まだ湯気の立つカップに慎重に口をつけるも、きっと濃厚で美味しいはずのココアなのに全く味が感じられなかった。
爽くんは自分用にブレンドを買ってきて運転席で飲んでいる。
「ごめんね。本当なら助けてもらった私が奢るべきなのに」
不甲斐ない自分に泣きたくなるのを堪えて無理やり笑顔を作る。
「あんな人、気にしないでいいと思います。女性蔑視なんて時代錯誤過ぎますし」
「まだまだ多いんだよねぇ、この業界」
なるべく気にしていないように振る舞っているつもりではあるけれど、エスパー家系の爽くんにはかなり堪えている私の心情なんてお見通しなのかもしれない。
でも担当さんの言い分だってわかる。彼だけじゃない。
今まで『若い女』というだけで私を切り捨ててきた人たちだって、ビジネスなんだから多額の費用を掛ける仕事を頼むのに、自分の娘よりも若いであろう小娘に託していいのかと懸念する気持ちはわかる。
だからこそ、信頼を勝ち得るために半年間尽くしてきたのだ。
それを……。
「生理痛に例えた『御曹司』も、たまには役に立つでしょ?」
そう笑い飛ばしてくれたのは爽くんの気遣いだってわかってる。
『社長の息子』というカードを使ってまで私を助けてくれたんだってわかってる。
わかってはいるのに、どうしても消化しきれないモヤモヤが心に燻る。
こんな時、いつだってどこからともなく水瀬がやってきて「飲みに行くぞ」って誘ってくれた。