純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「私もすごく嬉しい。会えないまま別れるのは、やっぱり名残惜しかったから」


 もうひとり、顔も見られずに離れてしまった友人の姿が幾度となく脳裏を過ぎる。彼女も元気でやっているだろうかと、時々思いを馳せては感傷に浸っているのだ。

 憂いのある笑みを浮かべる睡を、兼聡は熱い眼差しで見つめる。

 兼聡にとっては、もう二度と会えないのではと諦めかけていた彼女が目の前にいるだけで胸がいっぱいだ。さらに、きっとこれからも会えると思うと安堵も入り交じる。

 睡がエプロンをつけた姿で店に入ろうとしていたところからして、ヱモリで働いていることが窺えるからだ。


「睡さん、ここで働いているんですね。俺、たまに来るんです」
「そうなんですか。楽しみがひとつ増えました」


 本当に嬉しそうに笑う睡とは違い、兼聡は口元をほころばせながらも、入り乱れた複雑な感情を露わにする。

 身請けされた睡は今もその男と一緒にいるのか、気になって仕方がないのに切り出すことはできなかった。

 今日は休みで早めの昼食を食べに来たという兼聡と一緒に店の中へ入ると、蓄音機の音に交ざって電話している有美の声が聞こえてくる。
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