純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「えっ、ぎっくり腰!? 大丈夫なのかい?」
すっとんきょうな声に驚き、ふたりは一度有美に視線をやったあと目を見合わせた。店内にはまだ一組しか客はいない。
しばらくして電話を切った彼女に、睡が問いかける。
「どうしたんですか?」
「今日カツレツを予約してた人がいたんだけど、急に腰をやられちまって来れなくなったんだとさ。ここに来るのが月一の楽しみだって言って、本当に美味しそうに食べてくれる人なんだよ。できれば届けてあげたいくらいだけどねぇ」
有美は残念そうに言い、ひとつ息を吐き出した。
ヱモリのカツレツは予約をしないと食べられない。さらに決して安くはないが、サクサクの衣と自家製のソースがたっぷり絡んだ絶妙な一品だと大人気である。
それをそんなに楽しみにしていたのなら同情してしまう。とはいえ、東京の街に詳しくない睡には、届けることは難しいだろう。
「その人はどこにいらっしゃるんですか?」
「吉原の光晶屋。そこの番頭なんだよ」
駄目もとで尋ねたところ意外にもよく知っている店の名が飛び出し、睡は目を丸くした。