純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
ひとり待つ睡は、門の外側から仲之町の通りを眺める。夜ほどの賑わいではないものの、人力車が走っていたり遊女が歩いていたりする独特の雰囲気は、やはり一線を画した場所だ。
自分もここにいたんだなと、なんだか不思議な気分で眺めていた、そのとき。
「睡!」
名前を呼ばれると同時に、後ろから腕を掴まれた。驚いて振り向くと、珍しくとても焦った表情をする時雨がいて、睡は目を大きく見開く。
「時雨さん!? どうしてここに……」
「それはこっちが聞きたい。なぜ吉原にいる? まさか戻る気じゃないだろうな」
両肩をしっかりと掴み、怒っているように顔を強張らせる彼に思わぬことを言われ、睡はぶんぶんと首を横に振る。
「違いますよ! ちゃんと仕事で来たんです。とある方にこのヱモリのカツレツを届けに」
時雨はどうも誤解しているらしいと気づき、手に持っていた木の箱をこれ見よがしに掲げてみせた。
彼の背後には社用車が停まっているのが見える。おそらく仕事中にたまたまここを通りかかり、睡がいたので慌てて降りてきたのだろう。