純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
先ほど四片にも聞かれた睡だが、落ち着いて改めて時雨の顔を頭に浮かべると胸がくすぐったくなる。彼の姿は毎日すぐそばで見ているというのに。
今度頬を染めるのは睡の番だ。
「夫婦に、なりました。一般の夫婦とはちょっと違うかもしれませんが」
恥ずかしそうに目を逸らす睡の口から出たのは、兼聡に残されたわずかな期待を打ち砕くものだった。
やはり彼女は娶られていた。その事実が、鉛のように重く胸に沈み込む。
しかし〝一般の夫婦とはちょっと違う〟というひと言が引っかかった兼聡は、眉をひそめてさらに問う。
「ちゃんと妻として愛されているのですか?」
そう聞かれると、睡は困ってしまう。大切にされているのは間違いないが、男女の愛が成立しているのかどうかはなんとも言えない。
「どうなんでしょう……。でも、彼と一緒にいて毎日心が温かいのは確かです」
正直に答え、穏やかで美しい微笑みを浮かべる睡を見つめ、兼聡は複雑な心境を抱いていた。