純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
確かに玉響が亡くなった直後は、どうして早く瑛一は身請けしてあげなかったのだろうと悔やんでいた。それから次第に、瑛一にも事情があるのだし簡単な話ではないのだと、納得するようになっていたが。
瑛一は切なげな笑みをこぼし、おもむろに立ち上がる。
「……僕も、できれば出してやりたかったけどね」
憂いをたっぷりと含んだ声で呟いた彼は、薄い雲がかかった藍白色の空へと目線を上げる。
「玉響は、蝶になりたかったんだよ。誰のものにもならずに、自由に空を舞う蝶に」
──〝誰のものにもならずに〟
その部分に引っかかりを覚えた睡は、空を見上げる瑛一を、戸惑いが生まれた瞳で見つめる。
「姉さんは、瑛一さんのものになりたかったのではないのですか? あなた以外の方に身請け話を出されたから悲観して……」
そこまで口にしたとき、すぐ間近にある骨壺の存在を思い出して唇を噛んだ。瑛一は俯く睡に宥めるような笑みを向ける。
「それ以上はやめておこう。玉響が聞いているかもしれないよ」
ほんの少し茶化すように言い、彼は供養塔に背を向けて歩き始めた。睡もあとに続き、紺青色の背中を追う。