純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 唯一事情を知っていた茨には『お前は本当に遊郭に縁があるね』と気の毒そうに言われた。その通りで少々悔しいが、これをきっかけに時雨にはまた新たな考えも生まれていた。

 以前睡にも言ったように、ひとりでも廓に囚われた子を出してやれるのなら協力しようと思ったのである。玉紀にしてやれなかった分、その子には幸せになってほしいと。

 そうして身請けした睡が今最愛の人になっているのだから、運命とは不思議なものだ。


(玉紀が亡くなって、今日で四カ月か……)


 早いものだと時の無情さを感じながら、今日一日はたびたび彼女の面影を蘇らせていた。おかげで感傷的になったのか、無性に睡に会いたくなる。

 本日最後の仕事はヱモリの近くにある取引先での商談だったため、そのまま帰宅することにした。

 早く妻を抱きしめたい気持ちに駆られながらヱモリがある通りを歩いていると、ちょうど店の中からひとりの青年が出てきた。何度か見たその中性的な顔立ちは、髪結い師の兼聡だ。

 わずかに眉を上げる時雨に、彼も気づいて目を見張る。
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