純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「九重、さん……」
兼聡はぎこちなく名前を呼び、軽く頭を下げた。時雨は彼に歩み寄り、落ち着いた調子で問いかける。
「睡に会いに来たのか?」
「……ええ。でも、今日は休みだったんですね」
「残念だったな」
正直に答えた兼聡は、声に感情がこもっていない時雨を一度睨み、軽蔑するような笑みをこぼす。
「さすがは色好みの旦那だ。奥様に男が迫るかもしれないっていうのに、余裕ですね」
あからさまな嫌味にも時雨は動じないが、なぜ色好み呼ばわりされるのかは腑に落ちない。
それに、兼聡がこんなに敵対心を剥き出しにしてくるのは、ただ単に睡を取られた恨みからなのだろうか。
なんとなくそれだけではない気がして、時雨は気だるげにポケットに片手を入れて彼を見据える。
「君が俺に突っかかってくるのは恋敵だから? なにか他にも気に食わない理由がありそうだが」
ぴくりと反応した兼聡は表情を強張らせ、ひと呼吸置いてから口を開く。
「俺、遊郭で見たんです。あなたが何度かやってきて、玉響さんと逢引しているところを」