純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
悪い報告に、心臓がどくんと大きく波打つ。
怪我は一体どの程度なのか、そしてどこへ向かったのかを瞬時に頭の中に巡らせたとき、「四片!」と呼ぶ男の声が耳に届いた。
それに反応して時雨がぱっと手を離した直後、声の主らしき男性が横からやってきて四片を抱きしめた。彼女は目を白黒させている。
「え、瑛一さん!?」
「よかった、無事で……!」
しっかりと腕に囲われた四片の丸い瞳に、うっすらと涙が滲むのがわかった。
おそらくこの男性も彼女の身を心配してやって来たのだろう。花魁のためにそこまでするとは、間夫なのだろうか。
そんな考えが過ぎると同時に男性の顔が見え、時雨は目を見開く。
「……富井さん?」
紺青色の着物を纏った彼は、これまでに仕事で何度も顔を合わせている呉服屋の当主だったのだ。
驚きを含んだ声で苗字を口にすると、富井瑛一は四片から身体を離して振り向く。彼も時雨に気づいたが、驚くよりも不思議そうな顔をする。
「九重さん、あなたも来ていたんですか。奥様はもう花魁ではないのに」
時雨はまたしても唖然とした。妻が睡だと知っているのか。