純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 頭が混乱するも、四片がなにかを思いついたように「あっ」と声を上げたので、意識がそちらへ向く。


「瑛一さん、今日睡と会ったんでしょう。あの子、玉響さんの簪を探しにここへ来て、火事のあとそれを持ってどこかに行っちゃったのよ。心当たりない?」


 その内容を聞き、時雨は再び瑛一に視線を戻す。


「睡と会ったんですか?」
「ええ、浄閑寺で偶然。今日は玉響の月命日だから」


 瑛一の言葉で、睡が花屋へ行った理由にようやく気づいた。姉女郎の墓に供えるためだったのだと。

 なぜ玉紀の簪を探しに来たのかはわからない。しかし、それを持ってどこかへ行ったのだとすると、考えられる行き先は……。


「まさか、また浄閑寺に?」


 ふいに浮かんだ予想と瑛一の声が重なった直後、時雨は再び駆け出した。睡がそこにいる確証はないが、可能性がある場所はすべて捜す。

 睡の身をひたすら案じながら、火事の騒ぎで混沌とした吉原の街を駆け抜けた。


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