純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 命からがら廓の外へ出て、ふたりは咳き込みながら地べたにへなへなと崩れ落ちた。ようやく綺麗な空気を吸い込むと、生きていることを実感する。


「はあ……助かった……」
「ごめん、四片……私が足手まといになっちゃって」
「なに言ってんの! 睡が助けに来てくれなかったら、私は諦めてたかもしれない。私こそ本当にごめん……!」


 脱力したまま睡が謝ると、四片は今にも泣きそうな顔でうなだれた。とにかく少し負傷しただけで済んで本当によかったと、ふたりは胸を撫で下ろした。

 周りでは同じように座り込む人が多々いて、怪我をした者は順に医者が来るのを待っている。

 騒然とする中、睡はしっかり握り続けていた手のひらを開いた。片羽の蝶を見ると足よりも胸が痛みだし、再びぎゅっと握る。

 しかし、玉響の形見が燃えてしまわなくてよかったと思い、四片に声をかける。


「姉さんの簪を持ってきてくれてありがとう。四片のものは燃えちゃっただろうに……」
「いいんだよ、欲しいものはまた馴染みの旦那にねだるから」


 あっけらかんと茶化す彼女はやはり逞しくて、睡もやっと少し笑うことができた。
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