純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「ですが、少々大変で」
「それはどうして?」
「心が騒がしいんですよ。毎日妻に恋に落ちているようなものなので」
なにを言うかと思いきや、さらりと甘い発言を放つので、睡も夫人たちもぽっと頬を染めた。
時雨は妻が大好きであることを隠さない。睡が花魁だったという噂はどこからか流れているようだが、彼女の飾らない性格や時雨の愛妻家っぷりを見た者は、そんな噂はどうでもよく思えてくるのだった。
ふたりはその他の参加者ともしばし歓談したあと、バルコニーが見える窓を背にしてひとり料理をいただいている男のもとへ向かう。
今日はいつものカンカン帽は被っておらず、袴に羽織を合わせた格式ばった姿の茨だ。口元の無精髭も綺麗に剃られ、普段よりも若くさらに男前に見える。
そんな彼も睡たちに気づき、軽く手を振る。
「やあ、お疲れ」
「いつも主人がお世話になっております」
うやうやしく頭を下げる睡に、茨はいたずらっぽく口角を上げて尋ねる。
「それ、今日何回目?」
「十五回目です」
胸を張って答えると、彼はおかしそうに笑った。他人行儀の挨拶をしたのはもちろん冗談である。