純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
睡と時雨も自然に笑顔になり、声をそろえる。
「揚羽、おかえり」
四歳になる彼女の名は、九重揚羽。ふたりの間に第一子として産まれた娘だ。
揚羽は幾何学模様の着物を蝶の羽のように広げて駆け寄ってくる。時雨に抱き上げられ、「きゃははっ」と嬉しそうな声を上げた。
そして、手に持っていた紅紫色の小花を睡に差し出す。散歩の最中に摘んできたのだろう。
「これ、あかちゃんにあげる~」
「ムラサキカタバミ? 可愛い。ありがとう、揚羽」
妹か弟ができるのをずっと楽しみにしている娘にほっこりしながら、睡は小さな小さな花束を受け取った。
遅れて部屋に入ってきた菊子に、揚羽を抱き上げたまま時雨が声をかける。
「菊子さん、面倒見てもらって悪いね」
「いいえ、私が揚羽ちゃんに遊んでもらっているんですよ。もう、ばあばの気分で」
菊子は風呂敷の包みをテーブルに置き、目尻の皺を深めて嬉しそうに笑った。
まだまだ足腰も元気な菊子は、たびたび散歩や買い物に揚羽を連れ出してくれる。揚羽もだいぶ懐いており、本当の家族のような関係になっているのだ。