純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
同居生活四日目の朝、時雨は早いうちから家を出てひとり富山に向かった。
長旅を終えて降り立った北陸の地は、近代的な建物はまだ少なく田園風景が広がっていて、東京とは違った空気で新鮮だ。雪が多い地域としても知られており、その時期より少し早いもののすでに寒さは厳しい。
足早に哲夫が経営する工場へ向かい、併設されている事務所に入ると、社員と話していた哲夫が目尻を下げた笑顔を見せて時雨のもとへやってきた。
中年男性の中では若々しいほうで、腰の低い態度の彼は、一見異常性を持った男には見えない。
「九重社長、遠いところ度々ご足労おかけして申し訳ありませんね」
「いえ、こちらこそお時間を取っていただき、ありがとうございます」
営業用の笑みを貼りつけて挨拶を交わし、奥の社長室へ案内される。応接用のソファに座ってまずは仕事の話を始めるが、哲夫がその間そわそわしているのは明らかだ。
話がひと区切りついたところで、彼は待ち切れないといった調子で身を乗り出してくる。
「それで、九重さん。娘は見つかったのですよね?」
「ええ。立派に成長しておられました」
時雨は飄々と答えるが、一向に睡の姿が見えないので哲夫は困惑している。笑みもぎこちない。