この恋が手遅れになる前に

私の言葉に涼平くんは更に不機嫌丸出しと言わんばかりに眉間にしわを寄せた。

「どうしたの?」

「俺にもかっこつけさせてくださいよ」

「…………」

奢らせてくれ、という意味だろうか。
でも後輩に何度もお金を出させるのは申し訳ないと思ってしまう。

「それに、俺の前でまだ章吾さんって呼ぶんですね……」

「あ……」

ついうっかり下の名前を出してしまった。そうでなくても後輩の前で上司の下の名前を出すことはよくないかもしれない。『朝加部長』と呼ぶべきだろう。
もしかしてそのことに怒っているのだろうか。私が『涼平くん』とまだ自然に言えないのに『章吾さん』とうっかり口にすることに。

「家まで送ります。どっちですか?」

「こっち……」

私が家の方向に指をさすと涼平くんは私の手を握り歩き出した。

「…………」

「…………」

ずっと無言の涼平くんに不安になる。やはり何か怒らせるようなことをしてしまったのだろう。

「涼平くん、怒ってる?」

「…………」

何も言ってくれないから謝ることもできない。昨日から涼平くんが何を考えているのかさっぱり分からない。
気まずい雰囲気のまま私の住むマンションが見えてきた。

「涼平くん、ここでいいよ。ありがとう送ってくれて」

「…………」

「涼平くん?」

突然止まるから私も止まった。そうして涼平くんは私と向かい合った。マンションはもう目の前なのに涼平くんと別れることができないことに落ち着かなくなる。

「奏美さんの部屋に行きたいです」

「え!? 今から?」

「だめですか?」

怒っているような低い声だ。その声音に緊張する。

「あの……私の部屋、人を呼べるような状態じゃなくて……」

「部長は奏美さんの部屋に入ったことはあるんですか?」

「ないけど……それが?」

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