この恋が手遅れになる前に
「何が困るんですか? 教育係が担当の新人と寝たことがマズいんですか?」
慌てて周りを見回す。会社の人がいないとしても、すれ違う人が涼平くんの言葉に反応したからからだ。
「大きな声で言わないで……!」
「じゃあゆっくり話せるところに行きましょうか」
「え?」
「ご飯行きましょう」
笑顔で期待している様子の涼平くんに苦笑する。
「うん……私も二人で話したかったし、いいよ。でも今日はあんまり飲まないからね」
「はい。俺も酔ったふりはしませんから」
涼平くんは自然と私の手を握って歩き出した。
「ちょっと! 手!」
「いいじゃないですか。誰も見てませんよ」
怒っても手を放す気はなさそうだし、私も無邪気な態度に振りほどけない。
その時横の道路を見慣れた車が通りすぎた。思わず運転席を見ると運転手と目が合った気がした。けれどすぐに車は行ってしまった。
あの車の助手席にはよく乗っていたから分かる。今のは確かに章吾さんだった。
今回は私の家の近くにある店に入った。これまたお洒落なところで、涼平くんはリサーチがうまいなと感心する。私が喜ぶポイントを掴んでいる。
ほとんど仕事の話ばかりだったけれど、今後の二人の関係についてのことになると涼平くんは話を逸らす。強引に話題を変えるから私が戸惑っていることを察しているのだ。
今夜も涼平くんが食事代を払おうとするから私は店員さんに強引にお札を押し付けた。
「奏美さんって部長と付き合ってた時も割り勘だったんですか?」
お店を出ると涼平くんは機嫌が悪そうに聞いてきた。
「どうだったかな……でも大体章吾さんが出してくれてたかも」