この恋が手遅れになる前に
「俺は社長なんて興味ないから。やりたきゃ章兄でもいいし」
意外だった。政樹はもっと野心家なのかと思っていた。
「それでいいの?」
「俺はあのリゾートの担当になれればよかったから」
「へー」
「奏美こそ、章兄が社長で気まずくないか?」
「まあ……」
元カレが社長になんてなったら仕事がやりにくい。でもこればかりは仕方ない。
いつの間にか背後のドアが閉まっていて、政樹が乗るはずだったエレベーターは別の階に移動してしまった。
「そうだ、涼平を一週間借りたいんだけどいい?」
「ああ、うん。あの子の担当するクリスマス装飾は来週末からだし、定期の仕事に影響なければ大丈夫。私ももう涼平くんに任せきりだし」
今はほとんど涼平くんに仕事の指示をすることは無く任せているのだけれど、政樹はそれでも私に確認してくれる。
「下の名前で呼ぶようになったの?」
「あ!」
ついうっかり政樹の前で涼平くんと呼んでしまった。それほどに馴染んでしまった。
「あのっ、本田くんは懐っこいからそう呼んじゃうっていうか、フランクな先輩になろうと思ったというか……」
動揺を隠しきれない。そんな私に政樹は笑う。
「いいんじゃない、仲が深まって」
「…………」
政樹はなぜか嬉しそうな顔をする。いつもの政樹ならからかってくるのに。
「最近の政樹って雰囲気変わった?」
「そうか?」
機嫌が悪いと近寄りがたいし、私を苛立たせることも多かった。それなのに最近は穏やかだと思うことも増えた。
「今だって後輩を下の名前で呼んだら面白おかしく弄ってきそうなのに」
「ああ、涼平は別。あいつのことはずっと見てきたからね」
「政樹と涼平くんって仲良いね。涼平くんも政樹を慕ってるみたいだし」