呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?


 静かに話を聞いていたロッテは漸く納得した様子だった。手にしていた海綿を棚に置き、盥で泡だらけの手を洗うとエプロンで拭い始める。

「つまりあなたは聖女様で、人手不足で神官と偽って魔物の討伐部隊に参加していたけど、魔物に襲われて倒せた代わりに呪いで猫にされてしまった、ということなの?」
「ええ、そうよ」

 シンシアは深く頷いた。

「呪いが半端に掛かっていたから人間の言葉が喋れるようになったけど、戴冠式で陛下に粗相をして、反感を買われているから素直に真実を口にできなかった、と」
「そうなの。欺す形になって本当にごめ……」
「だとしても、私には教えて欲しかったわ!」

 間を詰めて一喝されたシンシアは目を見開いた。

「あなたにとって私はただの世話係かもしれない。でも私は陛下の猫じゃなくて、大切な友達だと思ってたわ」
 ロッテは怒りながらもシンシアの手を取って優しく握りしめてくれる。
「それにあなたは何度も私を助けてくれたでしょ? 世話しなかったり、無視したり酷いことをしていたのに手を差し伸べてくれた。だから今度は私が助ける番なの」


 同性で同年代の友達が一人もいないシンシアにとって『友達』という言葉の響きはふわふわしていてどこかむず痒い。それだけでなく宮殿内に味方ができたことは心強かった。

 シンシアが心を込めて礼を言うと、ロッテは今後のことをどうするべきか提案する。

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